母が死んでからは、おやじと兄と三人で暮(くら)していた。おやじは何にもせぬ男で、人の顔さえ見れば貴様は駄目(だめ)だ駄目だと口癖のように云っていた。何が駄目なんだか今に分らない。妙(みょう)なおやじがあったもんだ。兄は実業家になるとか云ってしきりに英語を勉強していた。元来女のような性分で、ずるいから、仲がよくなかった。十日に一遍(いっぺん)ぐらいの割で喧嘩(けんか)をしていた。ある時将棋(しょうぎ)をさしたら卑怯(ひきょう)な待駒(まちごま)をして、人が困ると嬉(うれ)しそうに冷やかした。あんまり腹が立ったから、手に在った飛車を眉間(みけん)へ擲(たた)きつけてやった。眉間が割れて少々血が出た。兄がおやじに言付(いつ)けた。おやじがおれを勘当(かんどう)すると言い出した。
2009/08/14(金) 13:32 遊び 記事URL COM(0)